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日報ブログ

地方中小企業にこそ必要な「ブランディング/マーケティング」発想―竹下康介さん(株式会社電通デジタル)【セミナーレポ】

AUTHOR 増子 愛

大学時代のサークルの先輩であり、電通デジタルのコミュニケーションプランナー/ディレクターの竹下康介さんが富山新世紀産業機構さん主催のセミナーで登壇してくださいました。
竹下さんはブランドクリエーティブ制作(コピーライター・CMプランナー)、ダイレクトマーケティング領域のクリエーティブ制作・効果検証・PDCA設計などを担当(出典:ウェブ電通報)されている、バリバリ第一線の方です。

常々、「SNS等で目立っているかどうかと、実力があって成果を出しているかどうかというのは、あまり関係ない。むしろ企業の中にこそ、守秘義務的にあまり公にでないものの、成果を出している実力派の人がいる。」と思っているのですが、竹下さんは、そんな中の一人で、世の中に知られるべき人だと私は勝手に確信しています。

セミナーレポートはおろか、ブログなんて殆ど書かない私ですが、尊敬のあまり僭越ながらレポートを書くことにしました。
なお、スライドが200枚を優に超え、超速ですごい情報量のセミナーだったのでメモが追いつかず、部分的なノートと記憶を頼りに再現した、私フィルターがかかったレポートであることをご容赦ください(_ _)

ちなみに同セミナーは、既に一緒に出席していた友人たちが、素晴らしいレポートを書いてくれているので、こちらもご紹介しておきます。

▼実力派WEBディレクター 坂下 千可子さんの懇切丁寧なレポート

富山で「地方中小企業にこそ必要な「ブランディング/マーケティング」発想セミナーに行ってきた|CHIKA-SK.NET

▼富山を代表するブロガー かじっくすがセミナーの内容を代弁 とくに「寒ブリ」を用いたブランディングの説明まわりが詳しい!!

【ブランディング発想】今すぐ使えるフレームワーク!!「氷見の寒ブリはなぜ売れるのか」|カジトリクエスト

※レポート中では、講義内容とわたしの私見とを分けるため、私見の前には「⇒」を記載しています。

1.デジタルコマース(WEBマーケティング)の前提となる基礎知識

デジタルコマースの全体像

講座の冒頭に、全体像を見渡せる図解がどどーんと出て参りました。
(メモを元に再現した図です。再現率は75%位だと思います・・・ごめんなさい。
100%の図をご覧になりたい方は、竹下さんにセミナーを依頼しましょう。)

デジタルコマース 俯瞰図 図解 竹下康介さんセミナー

潜在顧客を顕在化(実際の見込み客化)し、一度購入してもらってから、継続的にたくさんお買い物をしてくれるお客様になっていただくまでの流れを俯瞰できる図です。(⇒みればみるほど、網羅的!)

上図の通り、段階に応じて集客(流入を増やす)、接客(離脱率を下げる施策)、増客(リピート対策)の3つの施策があります。
自社が取り組んでいる各施策が、上図のどこに相当するのか、まずは頭の中を整理しておくことが推奨されました。

ネットショップ売上公式1

新規売上+現在の売上=全体売上

ネットショップで売上を上げるための定石は、新規の売上と現在の売上を積み上げていくことです。
新規顧客の獲得には、リピーターの売上を得るのの5倍のコストがかかると言われています。

⇒ご新規さんを獲得するとともに、1度購入してくださった方へのアプローチを行ない、リピーターさんを積み上げていくことの大切さを感じますね。

ネットショップ売上げ公式2

アクセス数×転換率×客単価=売上

たとえば

アクセス数:1000人×転換率:1.3%×客単価:10000円 =売上:130,000円 /月

となっているショップがあったとして、たとえば各指標の改善を積み重ねると

 ↓20%UP     ↓0.5%UP    ↓20%UP      ↓約200%UP
アクセス数:2000人×転換率:1.8%×客単価:12000円 =売上:259,200円 /月

のように、アクセス数、転換率、客単価のそれぞれにおいては、0.5~20%程度の少しずつの改善であっても最終的な売上は2倍になります。

⇒この公式は、楽天やネットショップ系のASPにログインすると出てくるおなじみの公式ですが、掘り下げると結構深いし、個別具体的な施策に落とし込めますよね。
例えば各指標を改善する具体的施策については、下記のようなものが考えられそうです。
・アクセス数を増やすには→広告施策やSEO、SNS運用
・転換率をアップさせるには→ページの改善(テキスト、画像、UIなど)
・客単価を上げるには→商品を値上げする(付加価値を伝える)、クロスセル(合わせ買い)、アップセル(1度お試しのお客様に高単価商品を買ってもらう)

マーケティングツールとの付き合い方

マーケティングツールに、答え、魔法、正解はない。
負荷なく実行するための道具である。

今どき、デジタルコマースのフィールドでは、いろんなマーケティングツールが乱立しています。
しかし、道具を入れたから成功する!という類のものではないので、道具に惑わされないこと、
要不要を見極め、自社に合うものを使いこなす姿勢を持ちましょう という趣旨のお話でした。

なお、マーケティングに関する各種ツールの価格は下がっていく方向にあるので、過大なITツールへの投資は不要になっていくようです。

2.デジタルコマースの傾向と今後

もはやデジタルだけでは差別化・優位化できない

デジタルコマースは下記の状態にあり、今後もその傾向は強まっていくと予想されています。

  • メーカー、小売りの進出のみならず、CtoC(メルカリなど)がすすむ
  • 女性のECのモバイルシフトが進んでいる
  • 消費者の行動も変わってきています。
    例:以前は飲み屋さんに行くのに、事前にPCをひらいて、HPから地図を印刷していましたが、いまや道すがらスマホを持ち歩き、Googleマップに案内されてたどり着くのが当たり前です。
  • デジタルだけでは差がつかない
  • デジタルが当たり前の世界
  • デジタルだけでは差別化・優位化できない

⇒昔のように、ネットショップ開いたから売れる!なんていう時代ではないことは、EC事業者であれば痛感し、次の施策を模索ている人も多いと思います。

最先端の技術がない地方中小企業は、もはや太刀打ちできないのでしょうか?

否、それに対し、

ツールやギミックで勝てる時代が終わった(Googleがそれを許さない)
 誠実・実直・骨太 なマーケティングをしていくことが大切

と、竹下さんはおっしゃいます。

では「誠実」「実直」「骨太」なマーケティングって?
具体的に私たち中小企業はどのような施策をしていけばいいのでしょうか。
次の節からが本題です。

3.地方の中小企業に必要なのは「ブランディング・マーケティング発想」

なぜ「ブランディング・マーケティング」じゃなくて「ブランディング・マーケティング発想」なのか

中小零細企業におすすめするのは、ブランディング・マーケティングをガチガチに考えずに、まずは「発想」を持って気軽に取り組んでみることなのだそうです。

⇒私自身、以前ブランドディングの入門セミナーでも伺ったことがあるのですが、ブランド構築のプロセスは、本格的にしようとすると結構長い道のりで、それなりにお金もかかるということがわかりました。
竹下さんはここのところをふまえて、まずはハードルを下げて、自社でブランディング的な発想をもつところから、やってみることを提唱していらっしゃるのでしょう。

ブランドの3つの定義

ブランドとは(1)固有性・差別性・指名性である

たとえば、氷見の寒ブリを売りたい、氷見の地元の魚屋さんを例にすると
お客様に、「ブリが食べたい」ではなく「氷見の寒ブリが食べたい」と思ってもらえる状態、個別性・差別性・指名性を確立できている状態です。
お客様にただのブリではなく、「氷見の寒ブリ」という認識を持ってもらうには、どういう施策を行っていけばいいか?というところに頭を使う必要があります。

ブランドとは(2)心理的な付加価値である

商品の付加価値のには三つの段階があります。

3.心理的付加価値 希少性、今だけ、期待、思い入れ、愛着 ← ブランド
2.機能的付加価値 より便利、より美味しい
1.基礎的付加価値 使えれば良い、食べられれば良い

これらの合計が、価格に対する納得性を生みます。

ここでは寒ブリを用いてクイズ形式で、心理的付加価値を説明していただきました。
ここのレポートは我らが氷見出身のブロガー、≫かじっくすのレポートに詳しいのでご参照

次に出てきた例が、パンが美味しく焼けるトースター『バルミューダ』の例
普通のトースターであれば数千円で買えるところ、数万円するそうですが、人気があり売れているバルミューダ。
竹下さん自身も購入されたそうです。私も買おうかな・・・

バルミューダの例

3.心理的付加価値 企業哲学、開発ストーリー
2.機能的付加価値 外はさくさくなのに中はしっとり焼ける
1.基礎的付加価値 パンが焼ける

バルミューダの場合は、おいしいパンが焼けるという機能的付加価値に優れている上に、企業哲学や開発ストーリーを対外的に発信していくことで心理的付加価値をプラスしたことが功を奏し、ブランドを築くことに成功したようです。

ブランドとは(3)良い記憶の蓄積である

ブランドとは、ファクトに裏打ちされた良い記憶である。
ロゴやブランド名は良い記憶蛾ストックされた物を、奇想するスイッチである。

この「良い記憶」がユーザーに蓄積されていると、毎回くわしく説明しなくても、買ってもらえるようになります。

⇒コーラのロゴを見ると、すかっとした飲み心地を思い出す私は既に、コカコーラのブランド戦略の手中にハマってるわけですね。
いかにユーザーに良い記憶を蓄積させる施策を出来るかという所が要のような気がします。

ブランドとは 補足

・高級品のみならず、顧客が価値を感じる物すべて
・マークや商標そのもののみならず、それらから連想される価値記憶すべて
・商品のみならず、企業・コーポレート自体もブランドである
・販促活動のみならず、あらゆる企業活動を通じて作る物すべてである

ブランドというと、高級なバッグや、有名ブランドのロゴを思い浮かべますが、それらはほんの一要素で、
ブランドとは企業のあらゆる活動によって示され、認知されるものであるということがわかりました。

⇒ロゴ、製品づくりから広報活動、販促活動など、すべての企業活動に、一貫してブレなく伝えたい価値を浸透させていくこと、そしてそれを能動的、戦略的に行うことが、ブランドを作ることなのだと理解しました。

競合は誰か?

文脈によって対比の対象は変わる。「ブリ」の競合は?

同じ商品でも、文脈によって、競合と位置づけるべき対象は変わります。
ここでも、富山県民が大好きな「氷見の寒ブリ」を用いて説明していただきました。

「ブリ」の競合は?

食べ物文脈なら:氷見の寒ブリの競合は「長崎のブリ」かもしれない
贅沢な食べ物 という文脈なら:氷見の寒ブリの競合は「米沢牛」かもしれない
ぜいたく品 という文脈なら:氷見の寒ブリの競合は「映画」

新幹線の競合は?

何を競合として位置づけるかには、分かりやすい競合と、見えにくい競合があります。

「新幹線の競合は?」と問われたとき、移動手段としてのみ考えるなら飛行機かもしれないが、
もし、都会で会議に出ることが目的なら、「スカイプ」かもしれない。

競合は何か?を考えるとき、このように、見えざる競合を見落とさないように、文脈をずらして考えることが必要です。

どんな人が、価値を感じてくれそうか?を先入観をなくして考える必要がある

キリンフリーは、ドライバーさん向けに開発されたが、実は「妊婦さん」に受けている
という事例があるそうです。
自社の製品・サービスが、どの領域なら勝てそうか、優位に立てそうかを、既成概念にとらわれずに考えることが大切です。
こうすることで同じ商品でも、新たな顧客像がみえ、新たな販促の切り口が見つかります。

売上至上主義からの脱却

「売上」-「コスト」=利益

販促を行っていくにあたり、「売上をあげよう!」となりがちですが、ビジネスを継続させていくにあたって大切なのは、最終的に手元に残った「利益」です。

ネットショップ売上公式1の話にもどりますが、新規の売上を作るコストは、リピート購入を得るのの5倍になります。
利益を残すには、小さいコストで売上を上げられる「リピータ―さんへのアプローチ」が要なのですね。

⇒現場にいると、作った売り上げがどのくらいの利益を生み出しているのか、フィードバックを受ける機会が少なくなりがちで、つい売上の数字ばかりみてしまうことも…
経営者に近い立場の人ほど当たり前と思うかもしれませんが、利益を出すという意識を社内の他のメンバーとも共有できているか、低コストで売り上げを得、利益を上げるようという発想を持てているかを今一度みなおしたいところです。
表面的な売上の大きさばかりを追わずに、しっかり利益を出していくということを、浸透させていきたいですね。


ここまでの戦略的なお話を踏まえ、後半は戦術的(各論的)に、デジタルコマースの具体的施策で役立つノウハウをご紹介いただきました。
ランディングページに盛り込むべき要素から、ABテストのことまで盛りだくさんでしたが、長くなったのでいったん小休止して、また時間を見て、心に残った部分を追記したいと思います。

さいごに

全体を通してとても分かりやすく、受講者のためになる情報を、惜しみなく提供されたいという、竹下さんの思いやりと情熱を感じるセミナーでした。
クイズ形式を交えた参加型のスタイルを取入れて、場の一体感をつくり、参加者を飽きさせることなく、テンポよく聞かせるプレゼン力と、的確な言葉えらびにも圧巻されます。

私自身、翌週に自分が登壇するセミナーを控えて受講したのですが、竹下さんのセミナーに向かわれる姿勢に学ばされる物があり、自身の講義の方向性も少なからず変わりました。
大手のクライアントも複数お持ちで、大きなフィールドで活躍されている方ですが、地方に対しても目線を出来るだけおなじくし、一定のリスペクトと理解のご姿勢をもたれていることにも感銘を受けました。

わけあって都落ちの私ですが、

「人には持ち場があって、縁あっている場所での役目をはたすことが大事。」
「下町の太陽たれ!」

と激励いただいたことも大変心に残りました。当面、田舎担当を頑張ります 笑

なお竹下さんは今後、地方でのご講演も増やしていかれたいそうで、また、来年の春以降になると開示できる(かもれしれない)デジタルコマースの最新情報があるそうです。今から超期待してます!!

関連リンク

竹下康介さんプロフィール(電通報)
https://dentsu-ho.com/people/1301

<出版/寄稿記事>
書籍『デジタルマーケティング 成功に導く10の定石』(徳間書店/2017/2/25)

電通報寄稿「デジタル活用で成果を出すには#17#18(原田 洋平×竹下 康介)」
http://dentsu-ho.com/articles/4123
http://dentsu-ho.com/articles/4124

電通報寄稿「デジタルマーケティング 成功に導く10の定石【定石2】常に消費者とやりとりするためにオウンドメディアの強化から始める(新井 祐一×竹下 康介)」
https://dentsu-ho.com/articles/5108

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